...小説


 微かな地震と共にお侍さんが来た。



美しきCHERRY



  地震が起きたすぐ後に、庭にある桜の木の側に人が立っているのを見つけた。
 父が代表でその人に話かけると、ナントカ時代に住んでいたお侍さんだと分かった。
 暖かくない春も始め、その人を少しの間家に置くと、家族会議の末に決まった。

 聞いたことがない話や珍しい仕草などを兄弟と一緒に面白がって、お侍さんとは楽しく暮らした。物静かさと礼儀正しさから、家族は好感を抱いた。
 桜の木の一花が咲くまで、お侍さんを独占するように楽しい日々を送った。

 家の桜が咲き始め、徐々に色を増やしていき、明日には溢れこぼれると思うほど咲いたと思ったある日、お侍さんはそれに見蕩れるように桜の木の前に立っていた。
 夕飯の時間を告げてもそこを離れる様子がないので家族が、平和ボケしたなどと言い出した。
 そしてついでに、いつ家を出て行ってもらうかのテーマで家族会議が開かれた。

 その日の夜中、お侍さんは車に跳ねられて死んだ。
 我が家と向かいの空き地に挟まれた道路で、車の急ブレーキの音と衝撃音が激しく聞こえ、様子を見に行くと道路の中央に斜めに停止している車と、桜の木の前に人がいないのを発見した。
 しかしお侍さんの身体はどこを探しても見つからなかったので、運転手は幽霊を跳ねたということで納得した。
 桜の花と葉が静かな風に揺らされ、お侍さんはもとの時代に戻ったのだと、家族全員は理由もなく確信した。

 次の日の朝、庭の桜の花が首ごと地面に落ちていて、花弁が燃え滓ように白くなっているのを母が叫び声によって周知した。

 お侍さんがもとの時代でも死んだのだと知った。


(おわり)

2008/11/26


季節感の無い小説っ!(笑




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