...小説




 オーロラ。
 今、見ている本に写真が載っている。
 写真のしたには「夜空のカーテン」などと書いてある。
 洒落たこと言うモンだ。

 昔見た映画にあった。
 ニューヨークでオーロラが現れた日に、主人公が生きていた頃の父親と無線で交信が出来て、過去を変えていくという内容の映画。

 ふと、俺にも無線があれば過去を変えるのになぁ、と考えた。

 本をテーブルの上に置いたまま、肘をついて過去の自分を変えるという妄想を繰り広げていると携帯電話が鳴った。
 あいつかな、と恋人の顔を思い浮かべ開けて見ると、画面には見知らぬ電話番号が表示されている。
 ワン切りではないみたいだったので、電話にでる。

『もしもし?』
「・・・・・・誰だお前?」
『えっと、タカヤジマ ゴウっていいます』
「・・・・・・!? お前、タカヤジマ ゴウって言うのか!」
 高矢島剛。滅多にいない名前。
『そ、そうですけど』
 驚いた。
『あの、さっき映画館から出たときに、ここの番号に電話掛けろって変な人が――』

 初めてあの映画を見た日か。
 忘れもしない、あの日の俺が電話の向こうにいるのか。
 俺が変えたいのは・・・・・・

「おい、タカヤジマ ゴウ!」
『はい』
 いきなり大きな声で喋ったせいで電話の向こうの自分は驚いたようだった。
「謝れ! 謝るんだよ、今すぐ!」
『・・・・・・』
「いいか? あれは俺の――お前のせいなんだ」
『・・・・・・あなた誰ですか?』
「俺もタカヤジマ ゴウだ」

 高校生の時、映画館に映画を見に行った。その映画が、あのオーロラの映画だ。
 映画館に行ったのはそれが最初で最後。
 そして、その日は、大事な友達と分裂した日。
 些細な喧嘩。
 でもそれからそいつと話すことはなくなってしまった。今だってどうしているのか知らない。
 あのころの俺には唯一の大切な親友だったはずなのに。

 電話の向こうの高校時代の俺はそれから、分かった、といって電話を切った。
 あれは自分だったと、理由はないが確信する。
 写真のオーロラを見た。

 まさかな。ここはそんなに寒い地域じゃないし。オーロラ以外の奇跡が起こったんだな。

 再び、携帯電話が鳴った。
「また、あいつか?」
 画面を見ると先ほど掛かってきた電話番号ではなく、『タカシ』と表示されていた。

 よっしゃぁぁぁ!!

「はい」
『おい、剛。いま外見てみろよ! スゲーぞ』
 この声を聞いて涙が出そうになった。
 良くやった! タカヤジマ ゴウ!!
『ちょっと聞いてんのか? 外見ろって。俺感動しそう』
「なんだってんだよ」
 うれしさに踊ってしまいそうになるのを抑えて、窓を開けた。
 真冬の夜の風が部屋にはいる。

 見上げると、真っ暗な夜空に七色のカーテンが大きく広がっていた。
 写真と同じオーロラだ。
 やっぱ、涙を止められなかった。
「すげぇ・・・・・・」
 オーロラのあまりの綺麗さには心を奪われた。
 ズっと鼻をすすってしまった。
『おい。お前泣いてんのか? 確かにすごいけど泣くほどでもないだろ』
 そう言ってタカシに笑われた。
「うるせえよ」
 
「・・・・・・なぁ、タカシ――」
 俺はゆらゆらと揺れるオーロラを見ながら言う。
「前に喧嘩したの覚えてる?」
『何いきなり? あ! お前、昨日俺が黙って牛乳飲んじゃったのまだ怒ってんのか? お前、しつこいぞ。あんなに謝ったってのにぃ』
 あぁ、高校の時の事なんて覚えてないか。
 俺は涙を拭いた。
「そうだよ。返せよ、俺の牛乳」
『ちょっとぉ、ゴメンってば』
「うるさい。今すぐ買って持ってこい! あと酒も忘れんなよ」
『なに! お前それ酒目当てだろ。チクショー』
 じゃぁな、といって電話を切った。

 俺は外に行った。
 オーロラが視界を占める。

 新しい過去の記憶がよみがえった。


「タカシ、ごめん」
「・・・・・・俺もごめんな、剛」


(おわり)

2006/1/7


『オーロラの彼方へ』まんせー!!




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