...小説


存在と価値


「どうして!? 私は何のためにあなたといるの!?」

 狭い部屋の中。男女二人が揉めている。

「うるせぇーな! てめぇみたいなお堅い女じゃ満足出来ねっつってんだよ!」

 女はとうとう大声で泣き出してしまった。

「わざとらしくなくんじゃねぇよ」

 男は、いらついて部屋を出た。


 ケンカの理由は男の浮気。

 浮気というが、二人は果たしてつき合っていると言えるのか。

 一度も肉体関係がなかった。

「むかつく」

 男は暗い夜の中をひとり歩いていた。


「だいたいあいつが悪いんだよ。あんとき――」

 男が誘った日があった。しかし女は断った。「もう少し待って」

 待つのは少しじゃなかった。一年以上も待ってた。そして男は我慢の糸が切れて浮気をしてしまった。


 しばらく歩いていると駅にきていた。仕事のくせでつい来てしまった。もちろんどこに出掛けるつもりはない。

 男はきた道を戻って、途中にある小さな公園の中に入った。電灯は暗すぎて意味をなしていない。

 ペンキのはげた木のベンチに座るが、少ししめっていて気持ち悪かった。

 夜風が冷たかった。

「寒・・・・・・」

 男はぼぅっと空を見た。星はなかった。完全に雲に隠れてる。

 こんな時に星見れたら気分いいんだろうな、と思って真っ暗な空を見ていた。

 でてくる前に女が言った台詞を頭の中で繰り返していた。

「わたしはなんのためにあなたといるの!?」



 好きだから。

 好きだから一年以上も待った。

 好きなのに、それ以上待てなかった。



「あんないい女逃したら、俺は価値のない男だな」

 どうやって言ったら許してくれるかな。

 男は大股歩きで女の元へ行った。


(おわり)

2005/9/19




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