今、私は母と一緒にあるものを作っている。
ひとつの世界を。
難しくはない。
材料は、土のみ。それだけで世界は出来あがるらしい。
あとは、作る人の思いに左右されるとか。
「あまり自分勝手なことを考えてはいけませんよ」
ボウルに入っている土をスプーンで混ぜながら母の話を聞く。
「ここにはやがて生命が現れます。その生命達がみんな幸せになれるようにしなければなりません・・・・・・」
母の話はいつもつまらない。
43万2957歳になる母は話を長くする。
しかも同じ話ばっかり。勘弁してほしい。
まだ1万年も生きていない私。
・・・・・・正直、遊びたい。
父が偉大な神の一人ということもあって、後継ぎはいろいろ勉強しなければならないらしい。
後継ぎったって99万年後の話だ。
はぁ〜。
遊びたい。
遊びたい。
そういえば今度友達とどっかの星に行くって約束したっけ。
あ〜何持っていこうかなぁ。
そうだ! あの人も誘おうかな。
はぁ〜、メンドくさい。
はやく作っちゃって終わろう。
「きゃあ!!」
母が突然叫んだので何かと思い、ボウルの中を見ると、土が紫色に変色し、どろどろに溶けていた。
“世界創生”は集中しないとこうなる。
・・・・・・やば。
こう思ったときは既に遅い。
母のゲンコツが頭に飛んできた。
「いたっ」
「何をしているんですか!? どうせまた遊びのことでも考えていたのでしょう!」
このやり取りをするのはもう10回目だ。
過去9回も今回同様に失敗したからだ。
ボウルの中身を捨てると、母は椅子に座りこめかみを押えた。
「はぁ。何度言えば分かるのですか、あなたは。父上が見たら落胆されますよ」
「・・・・・・ごめんなさい」
口先だけだが、言わないよりは良い。
母は、すこし寝ると言って自分の部屋に戻って行った。
その場には、私とあまった土と汚れたボウル+スプーンが残った。
母にとって世界創生は神経を使うものらしい。
実際はそんな必要はないのだが、母は気を使うタイプだからだろう。
母専属の召使さんによると、最近母に胃痛が出てきてるらしい。
考えるまでもなく、それは私のせいだ。
さすがに10回も失敗したのは申し訳なかったかな。
ボウルを綺麗に洗い直して土を適量入れる。
ゆっくりとスプーンで混ぜる。
地味な作業だ。
集中力が切れそうになるのをこらえる。
つーかセカイヘーワって何を考えればいいんだろう。
戦争はもちろんダメ。
でもそれだけじゃないよな。
平和。
平和。
幸せ。
幸せ。
おいしいもの?
それだけじゃあ肥満の世界になっちゃうし。
じゃあ、運動とか?
いやいや、やっぱり恋愛か?
ん〜〜〜〜〜〜。
自分にとっての幸せ。
自分にとっての幸せ。
・・・・・・げ、遊ぶことしかないよ。
もー!! メンドくさい!!
あっ、と気づいたときには時遅し。
幸せについて考えすぎて集中力が切れていた。
なんと今度は緑色に変色してる。
・・・・・・才能ないよ、自分。
仕方ない、と今日は切り上げて失敗した土を捨てようとした。
「なんだこれ」
土をよく見てみると、毛のように土から緑色のものが無数に生えている。
明るい緑や、暗い緑。白っぽいのや青っぽいの、赤っぽいの、黄色っぽいの、黒っぽいの、その他。
そして、うっすらと匂いがした。
その匂いはチキューでよく嗅ぐ匂いだ。
“草”の匂い。
「やったぁぁぁぁああああ!!!!」
私は急いで母の部屋に駆け、報告する。
泣いて喜ばれた。
その後、他の神々と話し中の父にも見せると頭を撫でられた。
明日は友達に見せよう。
ボウルの中にあるのは始めての自分の“世界”。
どうか良い世界になりますように。
(おわり)
2006/5/7
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