...小説

　もう十何年も前だが、よく怖い話を聞かされたものだ。

　なかなか寝ない私に母は様々なお化けを出して話を繰り広げた。

　当時一番怖かったのは押入れの中にいるお化けの話だった。

　真っ黒の隙間の奥には何がいるのか分からない。


　大人になるとそんな話は全て嘘だと分かって、何も怖く無くなった。

　むしろそういう“お化け”は信じなくなってしまった。


　でも今、一つ怖いことがある。
　
　クローゼットの扉の隙間の奥に見えるあの光の点は何なのだろう。

　真夜中に開ける勇気は無い。



（おわり）

2006/8/14