...小説


好きだ


 中学3年の春、わたしは一人の先生を好きになった。
 それは私のクラスの担任の先生だった。
 進級して先生達の挨拶の時に、好きかも、と思った。
 最初はとても軽い気持ちで、自分が本当にその先生のことを好きなのかも実感としては分からなかった。
 やがて好きだ好きだと言い聞かせるように意識してたら、もうその先生しか見えなくなった。

 私の友達は前から年上の男性と付き合ってるって聞いた。
 相手の話を聞いて、私はいつも羨ましがっていた。“大人の彼氏”に訳もなく憧れていた。
 その友達は、彼氏に合わせるかのように変わっていった。ギャハギャハ大笑いをして一緒に遊んでいた頃の面影は消えてしまった。
 置いて行かれたような気分になった。


 先生を見るたびにときめいた。
 でも影から見てることしか出来なかったのは、何が邪魔したのだろう。
 淡く切ない恋を気取っていたのかも。
 ただ勇気が出せなかっただけかも。
 禁断の恋だということを気持ちの何処かで思っていたのかも。


 結局あっけなく卒業してしまった。
 行動はひとつもしなかった。
 激しい思いを持ちつつ、何気ない風にただ見つめてただけだった。


 それから数年経って、高校も卒業した後のことだった。
 あの先生が結婚したという噂を聞いた。
 相手は、私のクラスメイトの女子だったそうだ。私が在学中の頃も密かに付き合っていたらしい。


 おめでとう。
 あまりにあっさりした自分がそう言った。
 本当に好きだったのかが突然分からなくなった。


 泣いた。
 泣けた。


 いつか、全てを乗り越えられる勇気が持てるようになるだろうか、と泣きやんだ時思った。


(おわり)

2006/7/4





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