...小説


夢のサル


 ある日、サルを好きになった。恋をした。
 動物園にいるサルがカッコイイとか思ったのではなくて、普通に私のいる教室にいて私の席の前に座っているサルのことを。サルに似ている人間とかでもない。生物学的に言うサルだ。
 どうして今まで気づかなかったのだろう。もうこのクラスになってから何ヶ月かたっているのに。席替えして彼(?)が私の前の席になり、私の目に彼が絶対的に入るようになってからだ。
 幻覚ではないらしい。彼は普通にクラスメートと話してる。そのクラスメート曰く、彼の名前はサルザワ。他のクラスメートも彼のことは何も気にしてないみたいだ。
 怖くて人には訊けない。

 しかし彼は少し可哀想なヤツかも知れない。眉毛が下がっているからか。何となく、彼を見てると泣けてくる。だから好きになったのかも知れない。

 たとえ同情から始まった感情だとしても今は恋だ。自分がそうだというのだからそうなのだ。
 彼とはそこそこ話す。でも私が(緊張して)ぎこちないので彼は変に思っているかも知れない。そんなときに彼は悲しそうな顔をする。そしてそんな彼を見て私は泣きそうになってしまう。
 そんな顔するなよ。大丈夫だから。

 彼には私以外の好きな人がいるらしい。彼が男子と話してる話が聞こえてきたから知った。その時の彼は幸せそうに笑っていた。
 ちょっとショックだった。たぶんちょっとじゃない。滅茶苦茶ショックだったけど、認めたくない。彼の幸せを願いたいから。
 彼とずっと一緒にいたいと思った。一生抱きしめてやりたいと思った。彼の小さな頭と身体を腕で包んであげたい。彼に私を頼りにして欲しい。彼を守る自信は世界一!と思った。出来ないのだろうけど。

 ある日、私は町中で彼を見つけた。走っていた。私は彼を呼び止めようとした。
「サルザワ君!」
 しかし彼はまっすぐ前を見てひたすら走ってた。その顔は悲しそうでありながら、焦っている感じだった。ただ走っているのではなく、目的に向かって走っていた。
 止まらないと分かった私は走りながら彼に話しかけた。
「サルザワ君!! どこに向かってるの?」
「泣いてるんだって! 好きな人が泣いてるんだって!」
「好きな人って・・・・・・」
 例の、彼の恋の相手だろう。私はその瞬間泣いてしまった。泣くのを止めようとも思わなかった。
 彼も好きな人を守ってあげたいと思っていたのだと分かった。お互いが相手を守ってあげたいと思っていたらあまり上手くいかない、彼はそう思ったから私を好きにならなかったのだろう。

 私は泣きながら走り、彼を追った。息がしづらかった。それらのせいかどんどん彼は離れていった。サルなのになんて速いんだ。サルって足速いのか。
 そして私は彼をとうとう見失った。

 私は学校へ行った。彼が学校に戻っているかも知れないと思ったから。
 しかし彼はいなかった。でもあの人はいた。彼の好きだという人。
 彼はこの人が泣いていると言うことを誰からどの様に聞いたのだろう。それとも違う人だったのか。

 それから彼は学校へ来なくなった。私の前の席が空いている。まだ探しているのかと思った。彼がいないのにクラスの誰も何も気にしない。彼は夢のように消えてしまった。 ただ机がそこにあるだけ。彼の抜けた毛も、何もない。
 何だか彼を置いてきてしまった気分だ。見知らぬ町に。彼は帰る道を探しているのではないか。


 何年か経った。もう成人になった私の元に細長い茶封筒が届いた。切手と宛先しかない。
 中を開けると紙が入っていて、その紙にはどこかの住所であろう物が書いてあった。しかし、字がぐちゃぐちゃで読めなかった。どこなのかは全然分からない。下手なクイズみたいだった。


 そして、その字は悲しそうで、自分のことを探して欲しいようだった。だから私は泣いた。


(おわり)




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