...小説


死者のバレンタイン 後


 少女は自分のベッドの上で目を開けた。

「24時間・・・・か。」

 時計を見ると、やはり0時だった。日にちは2月14日。

 買っておいた板チョコを出して、作り出す(といってもチョコを溶かして型に入れて固めるだけ)。

 少女は、いろいろな意味で緊張していた。好きな人に渡すことと、あのことを話してはいけないことで。

「で、出来た・・・。」

 時間は午前3時だった。

「3時間も掛かったのか!?」

 出来上がったチョコレートをきれいに箱に入れる。

「ン〜。カードにはなんて書いたら良いんだろう?(これから死ぬのに“好きです”は変だよな。)」

 そんなことを考えながら、さらに3時間かけて、たった1枚のカードに言葉を書く。

「もう6時だよ。ちゃんと渡せるかな?」

 そして、学校へ行く準備をする。

(なんか学校へ行くなんて、変な感じするな。)

「あら、もう起きてるの?」

「あぁ、お母さん。」

「そういえば、今日チョコレート渡すンだっけぇ〜?」

「うん」

「そっか。頑張ってね。」

 これが最期なのか、と思った。バレンタインとは関係ない悲しみが少女に現れた。泣きそうなのをこらえた。

「ねぇちゃん起きるの早すぎ。」

 少女の弟が、眠そうな目をこすりながら起きた。

「はは。おはよ。」

「うん。なんでこんな早いの? ・・・・・・あぁ、そっか。頑張れよ、ねぇちゃん。」

「・・・・・・ありがと。」

「2人とも、せっかく早く起きたんだから準備も早くしなさぁい。」

 いつも通りの朝だった。少女にとっては少し違うが。

 神さま、私は今幸せな時を味わってしまいました。 これくらい許してもらえますよね。

「いってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 何に気を付けるのか。気を付けなくても自分は・・・・。少女はそんなことを考えた。

「・・・・・・ばいばい」

 そう言って少女は学校へ行った。



 学校では女子も男子もバレンタインチョコの話がほとんどだった。

 人と喋るのも、緊張した。自分が例のことを話してしまわないだろうか。しかし、それ以外は普通だった。何事もない、生活だった。でも世界一幸せな学校生活だった。

 自分は本当に死んだのだろうか。少女はそう思った。



放課後

「あぁ緊張するよ」

 これで最期だ。この目的果たせるかな。果たせなかったらどうなるんだろう。

「ふぅ」

 深呼吸をする。この空気も最期だと感じた。

「あ、あの・・・・・・先輩!」

「ン? 俺?」

「は、はい。」

「何?」

「えと、これ渡したくて。」

「これって・・・・・・。」

「バレンタインのチョコレートです。貰ってくれますか?」

「いいの? あ、ありがと。貰うね。」

「こちらこそ、ありがとうございます。」

 そう言って少女は立ち去ろうとする。

「ちょっと・・・・」

「はい?」

「ごめん、なんでもない」

「・・・・・・それじゃぁ、さようなら。」

「これ、ありがとね。」

 そうして少女は目的を果たし、階段を下り、学校の生徒玄関を出た。



(使者さん、目的は果たせましたよ)。


 少女は家に帰るでもなく、ただ歩いていた。段々、辺りは薄暗くなっていた。

「お疲れさまです。」

「!?」

 急にあの使者が現れた。

「目的を果たしましたね。しかし、心の迷いが少々ありました。」

「・・・・・ダメでしたか?」

「ま、そんな細かいことは大目に見ましょう。私が言ったことは守れていました。」

「・・・よかった・・・。」

「よろしいですね。」

「はい。」

 今度こそ未練はなかった。

 少女は目を閉じた。



 ふわっ・・・・・

 少女は目を開けた。

 やはりそこは、薄暗い草原だった。

「さっきのことが夢のようだな・・。」

「そろそろ、扉が開かれます。」

「分かりました。なんかスッキリしてます、今。なんかすごく幸せな気分です。」

 少女は静かに涙を流した。

「では、そろそろ行きましょう。」

 少女は、その使者についていった。 少し歩けば扉はすぐに現れた。

 扉は大きかった。 高さはもの凄いあって天辺は見えない。取っ手なんて太くて、つかむのには両腕が必要なくらいだった。

「これがその扉ですよね。」

「はい。今開けますね。」

 使者はそう言って、取っ手に触れた。すると、扉が大きな音を立てながら開き始めた。

 扉が開き終わるのには10分以上掛かった。

「うっ・・・」

 少女はまぶしさで目を瞑る。

 扉の向こうは眩しいほど、真っ白の世界だった。

 しかし、寂しい感じではなかった。光っていた。すごく気持の良さそうなところだった。

「この中に入れば・・・・・・」

「分かってます。」

 ゆっくりと中へ歩んでいく。ふ、と少女がふり返る。

「あなたは確かに使者には向いてないかも知れませんね。誰かのために色々してくれるなんて、天使以上です。ありがとう。」

 そして、少女は白い光りの中に、溶けるように消えていった。



 少女の入っていった扉は見えなくなってしまった。使者はその扉があった場所を見つめていた。

 そこに、もう一人の似たようなカッコをした者が現れる。

「彼女の言うとおりあなたは向いてないですね、この仕事。」

「まさかあの子にまで言われてしまうとは・・・。」

「それに、“生”の世界に戻って事を話した者なんていませんよ。」

「私が作りました、即興で。未完成でしたけど。」

「あぁ、だから途中で話すのやめたんですね。」

「正解です。」

「あなたは、この仕事には向いていないですけど、彼女の担当があなたでよかったと思いますよ。彼女は本当に好きだったようだし、告白の相手を。」

「でも、少し甘かったかも知れません。」

「大丈夫ですよ。最期の彼女の顔はとてもよかったです。天使以上などと言われて・・・・・・。」

「ですね。あんな風に言ってくれるなんて。」

「さ、少し休んでください。私は次の死者を担当しなければならない。」

「はい。」

 使者は去った。



 少女からチョコレートを受け取った男の子は、家に帰り、貰った物を見ていた。

「あ、カードも入ってる。」

 カードを取り出し、それを読む。

“どうか、お体に気を付けて、元気に過ごしてください。”

(なんかのお見舞いみたいだな・・・。名前も書いてない。ま、知ってるんだけど。)



 次の日、ある教室の一つの机には花が飾られていた。

 机の持ち主の死因は下校途中の交通事故だった。場所は、少女が使者と会ったところ。

 そして、そのことはあの男の子にも伝わった。

(じゃぁ、あのカード・・・・・。)

「お前、その子にチョコレート貰ったんだよな。」

「知ってたのか。」

「なんか気持ち悪いな。次の日死んじゃうなんて。」

「・・・・・・。別に。」

 男の子は気持ち悪いなどとは思ってなかった。それより、悔しかった。

(あの時ためらわないで、告っときゃよかったな。)

 男の子は授業をサボった。



おわり(前編へ)


一応、処女作です。




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